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文芸素人講釈

古今東西の文芸作品について、講釈垂れさせていただきます。

本は、出版業界は、作家は、そして読者は、いかにして生まれたのか、という話。

 

ヨーロッパ 本と書店の物語 (平凡社新書)

ヨーロッパ 本と書店の物語 (平凡社新書)

 

 

「本」ですよ!「本」!そして「書店」!
私が愛する、これを読んでいるあなたもまた、深く愛しているであろう「本」と「書店」はいかにして誕生したのでありましょう。ということで、本日はヨーロッパにおける「本」と「書店」について深く知ることのできる一冊を、講釈垂れさせていただきます。

 

現在私たちが普通に考えるような「本」が誕生するために最も重要だった出来事、それは言うまでもなく1455年のグーテンベルグによる『グーテンベルグ聖書』の印刷でございましょう。それは正しく、人類史における革命でありました。

 

この印刷革命がもたらしたものは流通網の拡大であり、すなわち世界的なベストセラー作家の誕生なのでございます。

 

本書「ヨーロッパ 本と書店の物語」はまず、セルバンテスの「ドン・キホーテ」の物語から始まります。この1605年にマドリッドで出版された「ドン・キホーテ」は、例えば14世紀に出版されたダンテの「神曲」と比較しても圧倒的な速さでヨーロッパ全土に翻訳、刊行されて広まっていった、いわば印刷革命後の最初の世界的ベストセラー作品だったのであります。

 

また同時にこの「ドン・キホーテ」が重要なのは、主人公ドン・キホーテがいわゆる愛書家であったことでしょう。何町という畑地を売り払って100冊以上の「騎士物語」を買い込み、読み耽っていたという主人公、このキャラクターはまた、1605年にはすでに「愛書家」「書痴」と呼ばれるような人々が既に生まれていたことを示すものでございます。

 

さて、16世紀にヨーロッパで印刷業が最も盛んだった街はどこか、ご存じでしょうか。答えはフランスのリヨン。この街では書物の大市が開かれ、外国の書籍商たちも支店を設けているなど、ヨーロッパ全土における書物の供給地となっていたそうでございます。

 

とはいえ、書店の存在は長い間、大都市圏に限られたものでありました。そんな時代、地域を巡って民衆に向けて書物を広めて回ったのが、行商本屋の存在でございます。

 

彼らの扱った本は暦や占書、綴り字練習帳、妖精物語や恋愛小説など。フランスではこうした行商人によって売られた本は「青本」と呼ばれ、イギリスでは「チャップ・ブック」と呼ばれました。

 


ところで、「ドン・キホーテ」のセルバンテスはベストセラー作家とはなったものの、その版権を版元に安く売り払ってしまったおかげで経済的には苦しい人生を余儀なくされました。

 

しかしそういった状況に変化が起こったのが、ドイツにおけるゲーテの誕生でございます。彼の「若きヴェルテルの悩み」もまたヨーロッパ中で大ヒット、ヴェルテルの服装を真似る者や自殺者が相次いだと言われておりますが、この頃には出版者と作者、読者の三位一体となった出版業界ができあがっていたので、ゲーテには巨万の富がもたらされたようでございます。

 

さてさて、書物というものが民衆の間に根付くようになると、誕生するのが「貸本屋」であり、「古本屋」の存在でございましょう。

 

貸本屋や古本屋を利用することで、読者はより廉価に、しかもたくさんの書物に触れることができるようになり、当然のこととしてそれは愛書家の数を増やすことにもつながりましょう。するとまた出版業界はさらに巨大になる、という構図でございます。

 

出版業界の巨大化は職業作家を生み出します。しかし一方でバルザックが「幻滅」で描いて見せたように、いわゆる三文文士の存在や、作家志望のものを騙すような書籍商が生まれてくるのもまた、この頃でございました。

 

そんな出版業界において、19世紀にイギリスで起こった産業革命もまた、エポックメイキングな出来事でございました。とりわけ鉄道の誕生は大きな影響をもたらし、イギリスでは鉄道の利用者や乗客たちに向けて本や新聞を販売する「キオスク書店」が誕生。この「キオスク書店」は手軽に持ち運べる本の需要を生み出し、後のペンギンブックスのようなペーパーバック、日本で言う文庫本ですね、その源流となっていくのでございます。

 


と、そんな感じでヨーロッパにおける出版、本の流通、読者の誕生、作家の存在などをイギリス、フランス、イタリア、ドイツなどに焦点を当てながら俯瞰しようとするこの一冊。

 

もちろん読書好きにはたまらない話題がてんこ盛りでございます。書店と作家の関係と言えば、当然書店員でありながら創作を続けたノーベル賞作家ヘルマン・ヘッセ、またフランスの「シェイクスピア・アンド・カンパニイ」が文学の世界に与えた影響なども外せませんよね。

 

「本がすき!」なあなたはもちろん「本屋が好き!」というあなたにこそおすすめの一冊!

ああ、ヨーロッパの書店、一度訪れてみたいものでございます。

 

おなじみ小田光雄「ヨーロッパ 本と書店の物語」に関する素人講釈でございました。

 

ヨーロッパ 本と書店の物語 (平凡社新書)

ヨーロッパ 本と書店の物語 (平凡社新書)