読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

文芸素人講釈

古今東西の文芸作品について、講釈垂れさせていただきます。

ハイファンタジーとスチームパンクとスパイものを足して3で割ったらこうなる話。

SF、ミステリ、ファンタジー

 

 

えー、相も変わりません。本日ご紹介したいのは野村亮馬著のコミック作品「インコンニウスの城砦」でございます。著者はアフタヌーンで「キヌ六」や「ベントラーベントラー」などの作品を連載していた方のようですね。(ごめんなさい、私はその辺は未読です)

 

舞台はとある氷に覆われた惑星。この惑星では北半球と南半球に別れて戦争が行われていました。

 

詳しくは描かれていないのですが、恐らくこの惑星はもともと魔術的な文明が栄えていたようなのですね。で、この惑星には人間だけでなく、ドワーフやエルフといった幻想的な人種も共に暮らしているのです。

 

ところが北半球のどこかで人間は科学を生み出し、北半球側の人間たちは科学と魔術を融合させた文明を生み出して、南半球側を駆逐していくのですね。

 

で、元々は南半球側だったものの北半球に占領されてしまった都市インコンニウスに、ある日一人の少年がやってきます。

 

カロという名のこの少年は、南半球側のスパイとしてインコンニウスの軍需工場で働くことになるのです。

 

一方その頃南半球側ではインコンニウスを奪回するための新兵器として自律行動する巨大兵器、戦略巨像(ゴーレム)を開発していました。

 

しかし北半球側もその頃科学技術と魔術を融合させた新兵器の移動城砦(ラクス)を開発していたのです。

 

そうして南半球側のインコンニウス奪回作戦が開始されます。

 

しかしその情報はすでに北半球側に知られており、遠隔操作できる北側の移動城砦54号はこのゴーレムを待ち構えていたのでした……

 


というのがこの物語なわけですが、まあ言うなれば指輪物語スチームパンクにしたらこうなるよ、という話なのでございます。

 

ファンタジーとしてのスチームパンクというのは割とよくあると思うのですね。スチームパンクというのはもともとウィリアム・ギブスンの「ディファレンス・エンジン」がその始まりで、厳密に言うならばスチームパンクというのは19世紀の科学技術でどこまで可能か、ということが本来の趣旨だったのでした。

 

つまりSFというジャンルにおけるスチームパンクというのはなにかとんでもなくすごいものが登場したとしても、それが可能であるという技術的裏付けがちゃんと描かれていなければいけないわけです。

 

まあでも最近のスチームパンク物はあんまりそんな細かいところにはこだわっていないものが多いのですが、こだわる人はそういうものは本来スチームパンクではなくヴィクトリアン・ファンタジーと呼ぶべきだ、という人もいます。私も結構その意見には賛成なのですが。

 

まあそういうわけでですね、スチームパンクものの作品の中には「あ、これはガチのスチームパンク」というのとそうでないのが存在するわけですね。

 

で、例えば以前ご紹介した「スチームオペラ」なんかは割とガチな部類に入るのです。なぜかというとあの作品には宇宙船が登場しますが、19世紀の科学技術では本来不可能であるはずの宇宙船を物語に登場させるためにわざわざ「エーテル」なるものを物語に取り入れているからですね。

 

で、本作もその「割とガチなスチームパンク」の部類に入るわけで、ここで重要になってくるのが「魔術」なわけです。

 

特に北半球側の文明というのは人間中心の文明であるがゆえに科学が基礎となってくるのですね。だから南半球側のゴーレムというのは何で動くのかよく分からないのですが、北半球側の移動城砦というのはなぜ動くのか、ということが重要になってくるのです。

 

この移動城砦が動く仕組みというのがとても面白くて、エンジンにあたる部分の内燃機関で魔術が使われているのですが、この魔術を敢えて不完全にすることによってエンジンで常にエネルギーが発生し、城砦が動く、という仕組みになっている、と。

 

このことは結構この物語において重要な要素なわけですが、もうそんなことを考えている時点で「ああ、もうこの作者そういう話がめっちゃ好きな人だわ」というのがよく分かりますねえ。

 

本書は1巻で完結しているのですが、恐らくこの背後には科学文明と魔術文明に関する詳しい設定があることがうかがえます。

 


まあそういうわけでですね、もう本作が「指輪物語 meets スチームパンク」というだけでもかなり面白いのですが、実はそれに加えてもう一つこの作品の一押しポイントがあるのですねえ。

 

それがなにかというと、本作が「スパイもの」であるということです。

 

そういうやそうだね、と。指輪物語の世界観を描いたファンタジー小説や漫画というのは多くありますが、その世界観でスパイものって、これまでになかったと思うのですが、どうでしょう?

 

ということで、電子書籍で販売されている本作「インコンニウスの城砦」は、スチームパンクが好きな人、ファンタジーが好きな人、スパイものが好きな人にまるっとおすすめの一作なわけでございます。

 

さらにこの三つを足して三で割ったら一体どんなことになっちゃうのか? それは是非、実際に読んで実感していただきたい。

 

そして私は本作をできれば大判の単行本で読みたい! と切に願うのでございます。

 

おなじみ野村亮馬著「インコンニウスの城砦」に関する素人講釈でございました。