文芸素人講釈

古今東西の文芸作品について、講釈垂れさせていただきます。

古今東西の口説きの名文句を集めた話。

 

 

えー、相も変わりません。本日も馬鹿馬鹿しい話を一席。

 

本日ご紹介したい本は、現代言語セミナーの「口説きの言葉辞典」でございます。これがどういう本かと申しますと、古今東西の小説や映画、歌謡曲などから様々な口説き言葉を集めた一冊なのでございますねえ。

 

で、愛の告白からベッドイン、プロポーズにいたる口説き言葉が本書には収められており、あと最後には小説などの中に登場したり、あるいは有名人が実際に送ったラブレターなんかも収められているわけでございます。

 

で、実際に読んでみると意外に思ったのが、結構女性の言葉が多いのですね。なんでしょう、私「口説く」と言えばなんか男性がするもののように思っていたのですが、意外とそうでもないようで。昨今は草食男子とか肉食女子とか言われていますが、実際のところは昔から草食系は草食系だし肉食系は肉食系だったんでしょうね、男女に関わらず。

 

まあ、でもあれなんですよね、私あんまり女性からグイグイ来られるのは苦手でして、そういう場合には気づかない振りして避けて生きてきたタイプなんですが、でも本書で見つけましたね、この言葉を女性に言われたら私はイチコロになるなって言葉。

 

それはこんな言葉でございます。

 

「本当に私の命のためにすべてを棄てることができて」

 

これは連城三紀彦「野辺の露」の一節だそうで。いいですねえ「できて?」という、この最後の「て」が好きですねえ、私は。

 

こんなのもありますねえ。大原富枝「鬼のくに」から。

 

「あたしがあなたを好きになったことを、悪いことだと思って?」

 

うん、やっぱり「て」がいいわ。


さて、男性側の言葉だと、私が一番いいなと思ったのは、三浦哲郎「忍ぶ川」のこれなんてどうでしょう。

 

「七時を六時にしてくれないか。待つ時間がたまらないのだ」

 

良くないですか、これ? なんか思いが伝わるでしょう。

 

あとはそうですねえ、まあ私の中でよく女性を口説いてそうな人と言えばやっぱり太宰治なんですが、そんな彼の代表作人間失格から。

 

「この野郎。キスしちゃうぞ」

 

……何を言っているんでしょうか、この人は。てか、「人間失格」って、そういう話でしたっけ。

 

それでは今度はお友達の檀一雄さん「火宅の人」から。

 

「老眼でも好いとるよ。頭がツルツルに禿げ上がっても、好いとるよ」

 

な、なんか重いわ。

 


まあ、後はやっぱり難しいのはベッドに誘うときの言葉ですよねえ。一体どんな言葉を言えばいいのか。

 

そこでまずはしょっちゅう女性をベッドに誘っていそうな吉行淳之介さんの「夕暮れまで」から。

 

「脱がしちゃうぞ」

 

いいですねえ、ストレートで。あんまりね、余計なこと言うと気持ちが冷めますからね。

 

もう一つ、吉行淳之介さんで今度は「街の底で」から。

 

「耳の穴をほじってくれないか」

 

いや、なんかもう、よく分からんです。よく分からんけど、なんかすごい気がする!

 


さてさて、そんなわけで、本書は私にはあんまり参考にならなさそうなのですが、でもそうだ、あれですよ、私も近年は正月に親戚のおじさんに会うたびに「結婚せんのか」「このままでいいと思っているのか」と説教されるのでありまして、まあこのままでいいわけないよなってことでいつかはちゃんとプロポーズしなきゃならんと思ってるわけです。

 

ということで、みんなどんなプロポーズをしているのかしらん、参考にしてみよう!

 

まずは福永武彦「夜の時間」から。

 

「いいかい、僕が神だ、運命なのだ」

 

あかん、こんなこと言ったら殺されるな。関白宣言のさらに上を行っている感じがさすがですねえ。でも私はとても言えないw

 

これはどうですかね。有名な堀辰雄風立ちぬから。なんかいいこと言ってそうでしょ。

 

「それより他のことは今のおれには考えられそうもないのだ。おれ達がこうしてお互に与え合っているこの幸福――皆がもう行き止まりだと思っているところから始っているようなこの生の愉しさ、――そう云った誰も知らないような、おれ達だけのものを、おれはもっと確実なものに、もう少し形をなしたものに置き換えたいのだ。分かるだろう?」

 

……いや、分からん! ていうか長い! 却下!!!

 


えー、というわけで、やっぱり私にはあんまり参考にならなかった一冊でしたが、あなたにはそうでもないかもしれない!

 

で、本書には最後に小説の中に登場したり、有名人達が書いたラブレターが収められているのですが、その中からオススメのものをご紹介しましょう。

 

まずはモーツァルトが恋人に送った手紙。

 

「一体全体お前は、ぼくがお前を忘れたなんて、ただ想像するだけにしろ、どうしてできるのか? そんなことが、ぼくにあって堪るものか。そんなことを想像した罰として、最初の晩も、お前のその可愛い、キッスをしたくなる尻っぺたを、したたか打ってやるからね。それを覚悟しておいて」

 

イヤーン(*/∇\*)。何を言ってるんでしょうかモーツァルトは。でもなんか、モーツァルトでよかったよ。これがバッハだったらなんかもう…。

 

あとはこの恋文が好きでしたね。ロシアの文豪ドストエフスキーが妻アンナに送った手紙から。

 

「わたしの大事な宝、しっかりとお前を抱きしめて、数限りなく接吻する。わたしを愛しておくれ、わたしの妻でいておくれ。ゆるしておくれ、悪いことはいつまでもおぼえていないでね。だってわたしたちは一生涯、いっしょに暮らすのじゃないか」

 

「悪いことはいつまでもおぼえていないでね」って、一体何をしでかしたんでしょうね、ドストエフスキーw でもなんか可愛いぞwww

 

というわけで、おなじみ現代言語セミナー編「口説きの言葉辞典」に関する素人講釈でございました。